書評:アルゴリズム思考術 コンピュータ科学から読み解く人間像

アルゴリズム思考術:問題解決の最強ツール

アルゴリズムというのは問題解決に用いられる有限な一連の手順にすぎず、コンピュータよりもはるかに広い範囲で用いられる。そしてはるかに昔から存在する。

「アルゴリズム思考術」

本書では、人が日々直面する困難に対してよりよい解決策を模索するという「人間のアルゴリズム設計」の概念を探っていく。

「アルゴリズム思考術」

もっと視野を広げれば、コンピューター科学の視点から物事を見ることによって、人間の心の本質、合理性の意味、そして「われわれはいかに生きるべきか」という人類最古の問いについて理解を深めることができる。

「アルゴリズム思考術」

タイトルからして、〇〇術的な凡百のノウハウ本のように見て取られるかもしれないが、書店にたくさんあるそのような本とは一線を画する知的好奇心を刺激する優れた科学読み物である。

コンピュータの情報処理に用いられるアルゴリズムの解説と、それが意外と人の身近な行動と関連があり、人間の行動の理解や、その改善に関連があるという話。その一部を以下に紹介する。

最適停止 どこまで情報を集めて決断するのか

本書のなかでも一番最初に取り上げられるのが、「最適停止」の問題である。

例えば、あなたが秘書を採用するとして、たくさんの就職希望者と面接をするとする。応募者のなかからなるべく優れた応募者を選定しなければならない。あなたは、応募者と一人づつ面接し、採用したいと思ったらいつでも採用を決めて良い。そこで選考は終了する。ただし、いったん不採用とした応募者をあとから採用することはできないルールだ。

この状況で、面接を行う場合一人目の面接者をいきなり採用することはないだろう。面接が1人目ではその応募者がどの程度優れているか、または劣っているか判断する基準がないからだ。そのため面接を始めてから何人かは、基準を作るために採用を見送ることになる。

では果たしてどれぐらいの応募者を見送って基準を作れば最適と言えるのだろうか。

本書は、この問題に対し明確な基準を与えている。それは全体の37%。

秘書の応募者が100人ならば、37人までは採用の基準を作るために見送る。38人目以降で、基準をうわ回る応募者がいたら即採用だ。あるいは人数ではなく時間でも良い。秘書を決定するまでに与えられた期間が100日間ならば、37日間までは基準づくりのために費やす。それ以降、応募者と面接する場合は得られた基準に従い、合格する応募者を採用する。

本書内では、なぜ37%が最適と言えるのか、過去の研究事例を紐解き、解説してくれる。

秘書を探す経験がある人は多くないかもしれないが、おり多くの人が共感できる類似の例といえば、アパート探しや土地・住宅等の不動産購入時だろう。あるいは恋人や配偶者を選ぶ際なども当てはまる。

37%則は最良の結果を保証するものではないが、確率的にもっとも最適な選択をする可能性が高いアルゴリズムである。これを知っておくことで、自分の決断により満足した人生が送れるようになるだろう。

山積みの書類をどう整理するべきか

仕事机に山積みされた書類、と言えば整理ができていない悪い例と普通は思うだろう。場合によっては机が散らかっていることで、その人の能力が推し測られ、片付けができない奴は仕事もできない、なんてレッテルを貼られることだってある。

そんな片付けが苦手な人に朗報がある。じつは山積みされた書類は、コンピュータの情報処理アルゴリズムの一つ「キャッシュ」の最適化と同じ方法で自然と最適化されているかもしれない。

これはどういうことだろうか。

コンピュータでは処理を高速化するために、よく使う情報は高速でアクセスできる箇所に保存している。これをキャッシュという。しかしキャッシュに保存できる容量には限りがあるため、どの情報を残しどの情報を削除するか、を決定することが重要である。

本書によれば、この判断基準のうち最も優れたものは、使われた日時の順で整理するということだそうだ。すなわち、一番最近使われたものを一番アクセスしやすい箇所に置くように順序を更新していき、もっとも過去にアクセスされたものからキャッシュから削除していく。こうすることでアクセスする頻度が高い順になるべく近い形で、かつなるべくシンプルなルールで配列できるのだ。

実はこれが書類の山にも当てはまる、と筆者は述べている。つまりやりかけの仕事のうち新しいものから山の上に積み重なっていく。古い仕事を山の途中から引っ張り出してきた時も、山に戻す時は一番上に戻される。こうしていくうちに、書類の山は自然とキャッシュと同じように、使った日時の新しい順に並ぶことになるのだ、と。

私自身は整理は苦手で、放っておくとすぐに机に書類の山ができてしまうタイプだ。でも意外と仕事のやりづらさを感じなかったりするのは、この書類の自己組織化が行われているせいなのか、と思ったりした。興味深い指摘である。書類を紛失したり、山に圧迫されて作業場所がなくなったりするのはNGなので、書類の山にも限度があるが、片付けが苦手な人は、頭に入れておくと良いかもしれない。

探索と活用

新しいものを取り入れるのに、時間を費やすべきか、過去に試して結果が分かっているものを、用いるべきか。例えば、食事をする際に新しい店に行こうか、それとも行きつけの店にしようか。どちらの選択肢がアルゴリズム的に最適と言えるだろうか。

これは残り時間との兼ね合いで決まるそうだ。

例えば、新しく引っ越してきたばかりで、これからまだ長くその町に住む、という状況であれば新しい店を「探索」した方がよい。もうその町には長く住むつもりが無いのであれば、外れる可能性がある知らない店よりも、実績のある店を「活用」したほうが良い。

筆者はカジノで、当たる確率の異なる複数のスロットマシンのうち、どのマシンが当たりかわからない状況で、どのようにプレイするべきかを扱った、「バンディット問題」を用いて、この原理をわかりやすく解説してくれる。

このバンディット問題が当てはまる状況としては、例えば、読書において何を読むべきか。新しい本を読むべきか、すでに読んだことがある本を再読するか、という例が考えられる。

哲学者ショーペンハウエルが書いた読書論、「読書について」では、どういう本を読むべきか、という問いに対して徹底して古典を推してくる。古典とは、自分が読んでいない作品であっても他人が長く読み継いで来た作品であり、実績はあると言える。外山滋比古の言うところの「時の試練」に耐えてきた、と言うことである。

しかし、本書の視点に立てば、古典をショーペンハウエルが徹底的に「活用」する戦略を取っているのは、「読書について」が残された時間の少ないショーペンハウエルの晩年に書かれていたせいもあるのかもしれない。

哲学者 ショーペンハウエルの書いた、読書するにあたってのガイドブック。とにかく自分で考えることの大切さが巧みな表現で繰り返されている。たくさんの出版物や情報がある中で、どのような本を読むべきかの指摘は、情報があふれる現代でも重要な課題。

まとめ

翻訳か元文のせいかわからないが、やや読みにくい印象あり。しかし内容は非常に面白く、楽しませてもらった。おすすめである。


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