アベノミクスによろしく (インターナショナル新書) 明石 順平 (著)


アベノミクスによろしく (インターナショナル新書)

この本はアベノミクスの「中身」とその「結果」について、政府や国際機関が公表しているデータを基に、客観的に検証した本です。
(中略)
分かりやすさを重視し、「何でも知ってるモノシリ生物モノシリンが、太郎君に解説する」という対話形式の設定にしました。(中略)アベノミクスについて書かれた本は多々ありますが、本書ほど「分かりやすさ」に重点を置いた本はないと思います。
(中略)
アベノミクスについては、疑問を呈する意見もありますが、概ね結果を出しているという論調が世の多数を占めているでしょう。しかし、客観的なデータを基に分析してみると、それが大きな誤りであることがわかります。この本を読めば、良い結果を出すどころか、アベノミクスが空前絶後の大失敗に終わっており、さらに出口も見えないという深刻な状況に陥っていることがよくわかるでしょう。しかもその失敗を覆い隠すために、GDPが、算出基準変更に伴う改定のどさくさに紛れて大幅にかさ上げされた疑いもあるのです。
(中略)
この本はできれば全ての国民に読んでいただきたい本です。読み終わった後、厳しい現実に直面することになります。それでも、現実から目をそらさないでください。現実をありのままに見つめることから始めなければ、この国の未来は開けないでしょう。現代日本の最大のリスクは「アベノミクス」なのです。

(まえがき より引用)

本書は、引用の通り、アベノミクスの中身と結果について、一般に公表されているデータをもとに客観的に検証した本である。
文章が、平易であり論理的な構成がしっかりしているため、非常に読みやすく筆者の主張が伝わりやすい。引用させていただいた「まえがき」からも良くわかるのではないだろうか。それもそのはず、著者は現職の弁護士であり、それならば論理性や、情報や意見を正確に人に伝えることはお手の物かもしれない。

「何でも知ってるモノシリ生物モノシリン」と「太郎君」との対話形式の他、人気漫画「ブラックジャックによろしく」の二次利用など、軟派なおちゃらけた本とも取られかねないが、大間違いで、内容はシリアスであり、それを何とか多くの人にわかりやすく知ってもらいたいという著者の情熱がこのような形式を工夫して取らせたものと推察する。
逆に著者の必死な思いが伝わるくらいだ。

本書で用いられている図表の数、なんと90近く(!)ということで、データを基に客観的に検証した、の謳い文句に偽りはない。新書ということで、なめてはいけない。やはり、著者の執念を感じる。論理的な構成も相まって「研究論文」というような印象を受ける。

内容の紹介を簡潔に。

第1章 アベノミクスとは何か
第1章では、アベノミクスの狙いや、具体的な「3本の矢」に代表される、政策内容について説明する。そして、第一の矢として行われた「大胆な金融政策」:異次元の金融緩和について述べる。
金融緩和の狙いは、下記の2点であったことが示される。
・市内に出回るお金の総量「マネーストックの増加」
・物価上昇が予想されるため、物価が上がる前に物を買おうとして消費が伸びる。

第2章 マネーストックは増えたか
第2章では、金融緩和の狙いであった、市内に出回るお金の総量「マネーストックの増加」、また物価の上昇量について検証する。
結果として
・金融緩和によりマネーストック増加ペースは変わらなかった。
・物価は3年間で4.8%上がったが、増税と、円安による影響であり政策の効果ではなかった。
ことが示される。

第3章 国内実質消費は戦後最悪の下落率を記録
第3章では金融緩和の狙いの一つである、「物価が上がると消費が伸びる」について検証する。
結果として、アベノミクス開始前よりも、消費が下回ったことが示される。

第4章 GDPかさ上げ疑惑
第4章では、政府によって発表されたGDP統計値に、アベノミクスの失敗を隠すためのデータ改ざんが行われたのではないか、という疑惑について、データを基に論じる。
2016年に内閣府が行ったGDP算出方法変更により、GDP値は変更前の値からかさ上げされたが、そのかさ上げ量は一様ではなく、アベノミクス開始後のGDPが大きくかさ上げされていることが示される。このかさ上げについて分析した結果、公表された情報から明確な説明はできず、政府が発表するところの「その他」という曖昧な要因によってかさ上げされていることが明らかとなる。

第5章 アベノミクスの「成果」を鵜呑みにしてはいけない
第5章では、アベノミクスの成果として一般に謳われる、アベノミクスの成果とは認められないことを示す。
・雇用の改善
前政権時代から続いていたものであり、改善にいたるメカニズムはアベノミクスとは関係ない。
・株価上昇
公的資金投入による効果であり、政策とは関係ない。
・賃上げ2%3年連続達成
達成できたのは全労働者のわずか5%程度にすぎない。

第6章 「第3の矢」は労働者を過労死させる。
第6章では、第3の矢、であるところの下記について述べる。
・高度プロフェッショナル制度の導入
・企画業務型裁量労働制の拡大
筆者はこれらについて、「残業代ゼロ法案」と喝破する。
前述したように筆者の職業は弁護士であるが、中でも専門は労働事件とのことであり、ここはその視点が強く反映された部分か。

第7章 アベノミクスの超特大副作用
アベノミクスの出口戦略はあるのか。日銀が金融緩和をやめれば、国債が暴落する可能性がある。
さりとて、このまま金融緩和を続けたとしても、いずれ破たんすることになる。

第8章 それでも絶望してはいけない
総まとめ。そして、これからについて。
特効薬は無いが、それでも受け止めていかなければならない。

本書のハイライトであり、オリジナリティのある部分であると思われる第4章について、これだけの分析を行った著者の慧眼は見事である。また、著者によれば、これらの事実を指摘するべき野党は、経済統計の分析ができておらず、この疑惑について気づいていないのではないか、と言う。
もしそれが本当ならば、野党がしっかり分析できていないというのは情けない話ではないか。これだけの分析を一在野の人間が行っているのに、本来それを行うべき人間は何をやっていたのか。
なお、実際本書は国会の答弁の参考資料としても引用されたとかで、ということは本当に気づいていなかったことを裏付けていると言えるのではないか。

自分の頭で考えること。権威にすがるのではなく、ルソーが言ったようにこの世界という書物を読め。政府の発表は信じられない、でこの本だって信じられるのか。うのみにして信じるのであれば、ご本尊を挿げ替えただけではないか。自分でこの後、データを紐解いて自分の手と目で確かめることができるのか。データは公開されている。後は自分次第。

最後は結びの部分から。それでも生きていかなければ。

モノシリン
いつかの時点で円と株価の暴落が起きて経済に大混乱が起きれば、さすがに国民も目を覚ますかもしれない。

太郎
気づいたときには日本終了じゃん。嫌だよ。そんなの。

モノシリン
太郎、もの凄いインフレが起きるとか、とっても痛い目にあうかもしれないけど、この国が消えてなくなるわけじゃない。諦めちゃいけないよ。もう痛い目にあわずに済む方法はないかもしれないけど、どん底に落とされたってそこから這い上がればいい。君たちの大先輩が敗戦後の瓦礫の山からこの国を立て直したようにね。

(第8章より引用)

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