一生のあいだずっと学びつづけ、「発見」しつづけるには、いかにして書物を最良の師とするか、それを心得ることが大切なのである。この本は、何よりもまず、そのために書かれたものである。
(M.J.アドラー、C.V.ドーレン、「本を読む本」)
「本を読む本」は、「読むに値する良書を知的かつ積極的に読むための規則」について述べた本である。原題は「How to read a book」であり、まさしく本の読み方である。
本の読み方、特に知識や思想を得るための読書の方法論として、良く整理され体系化された本であり、読書家を自認するならぜひ読んでおくべき一冊だと思う。
ちなみに翻訳は、「思考の整理学」などで有名な外山滋比古。訳者あとがきとして載っている、外山氏の「日本人の読書」もまた一読の価値あり。
目次
「積極的読書」のすすめ
この本のキーワードは「積極的読書」。受動的に漫然と文字を追うのではなく、著者の精神・思想を、積極的に捉えにいく姿勢が重要だと述べている。
ある本を読み、理解する、とは、「本の著者の精神」と「読者の精神」が、時間や場所や脳の物理的制約を越えて出会うことに他ならない。
そのためには、読者の側も著者の主張をつかまえにいくために、積極的な態度で望まなければならない。それはアドラーが例えて言うところでは、山にトンネルを掘る作業である。
ある山の両側からトンネルを掘り進める。片方は本の著者であり、もう片方は本の読者である。両側からうまく掘り進めないと両方のトンネルは出会うことができない。著者の側は、可能な限り誤解なくわかりやすく書くことで、トンネルの目的地を示し、読者の側はそれを頼りに読み、理解して著者のトンネルにつながるように努力する必要がある。
読書において著者の主張を「深く理解」をするためには、読者の側もこのような努力が必要となる。この努力をアドラーは積極的読書と読んでいる。
本に書き込む
では、積極的読書とは具体的にどのようなものを言うのか。そのエッセンスをかいつまんで紹介したい。
まずは、アドラーは本を読みながらどんどん書き込むことを推奨している。
それはなぜか。
まず一つは、ペンを持っている限りは本に向かう気持ちがはっきりするから。自分が積極的に本に向かっているという象徴としてペンを持つと言うこと。
二つめは、より本質的な部分。われわれの思考は言語を用いてなされる、と著者は言う。積極的読書には本を読みながら考える、思考することが必須だ。そのときの思考の内容を言語化して、定着させて本の紙面の上に記録することが本を理解することを助ける。と説いている。
書き込みの内容は、傍線を引く、余白に書き入れをするなどいくつかあげられているが、どんな形式でも良いだろう。
本は物理的に所有するだけでなく、読み込み理解することが肝要だ。本に書き込むことに抵抗がある人も多いと思う。しかし、本を所有するとは、本の内容を理解して初めて達成されることだと思う。本棚に並べたきれいな本のコレクションよりも、書き込まれ内容を深く理解した一冊の本の方がその価値は高い。
読んでいる最中に問いかけをする
読みながら、筆者に質問を投げかける。その質問には本を読みながら自分自身で回答するように努める。質問の例として、下記があげられている。
- 全体として何に関する本か
- 適切な本の構成になっているか
- 何がどのように詳しく述べられているか
- 著者の思考、主張、議論の要点を発見するよう努めなければならない
- その本は全体として真実か、あるいはどの部分が真実か
- それにはどんな意義があるのか
単に「積極的に読む」、「自分で考える」と意識するだけでなく、気をつけるポイントをこのように具体化することで、より効果的な読書が可能になるだろう。
自分の言葉で言い換えてみる
本の内容を理解しているかを判定できる方法として、
「著者の主張を理解しているかどうか、判定するためには著者の主張を自分の言葉で言い換えてみる。」
というものが示されている。単に言葉の順序や表現を変えるだけでは不十分で自分独自の言葉で示すことが望ましいとしている。
私はこのブログで本の内容を紹介しており、筆者の主張を自分の言葉で言い換えられるか、というところは常に注意はしているつもりである。特に一番最初に本の内容を要約するときにはなるべく自分の言葉で紹介するように。だけれどもこれが非常に難しい。ついついレビュー対象の本から引用してしまいたくなる。(本記事も引用から始まっている。)
このあたり、まだ自分で考えることが不十分なのかな、と考えさせられる指摘である。
具体的な事例を挙げてみる
その他、重要な指摘と感じたのが、「著者の主張に対して合致するような具体的な事例を挙げてみること」。自分自身の経験や、見聞きしたことのうち、筆者の主張に対して合致することを挙げる。あるいは合致しない、反証となるような事例を挙げてみる。
いずれにせよ、筆者の主張を自分で能動的に解釈し、自分ごととして捉えなおす効果が得られるだろう。人間なにごとも自分で経験した物事が一番良くわかるもの。自分自身の経験に置き換えることで良く理解できる。
哲学や思想以外に、自然科学などにおいても有効な方法だと紹介されている。
まとめ
本レビューで紹介できたのは本書のごく一部でしかない。読書を一生の友とするつもりなら、ぜひ読んでおきたいお勧めの一冊である
併せて読みたい
「本を読む本」が提案する積極的読書。その実践のための方法論として、短時間で本の主張と構造を把握する「点検読書」の技法がある。これが本を読む際には非常に有効である。
19世紀、ドイツの哲学者ショーペンハウエルが著した読書術。単に本を読むことを超えて、自分で考えることの大切さを説く一冊。
精神分析を専門とする著者の一風変わった読書論。読書という行為が何であるかについて、視野を広げてくれる。
よく読むことと、よく書くことは表裏一体の関係だ。読書論と同様に文章作成論も併せて考えることでより理解が深まる。「理科系の作文技術」は名著である。